
■はと
「発表会やりたい!」
臨時の担任として、はと組に入った初日に皆から言われた言葉です。
1日の間に幾つものクラスがそれぞれの小道具を抱えてクラス前を通り過ぎて行きます。それを窓越しに皆がじっと見つめています。
「そうだよね。発表会やりたいよね」と皆を見ると、数人の子がクラスの隅に置かれた小道具を気にしていました。
発表会当日まで残り僅かです。私の不安とは逆に子ども達のやる気は十分です。
「発表会やりたい」の皆の気持ちは大きな支えとなりました。
その日の降園後、他のクラスの教師に実際に私のピアノで動いてもらいました。しかし、「今の(弾き方)じゃ動けない」と言われ、当たり前ですが発表会活動でのピアノの大切さを痛感しました。ただ弾くだけでは子ども達が動けないのです。
先輩の先生達にアドバイスをもらい、翌日から発表会が始まりました。私の拙いピアノでも何とか音楽を感じて演じてくれます。まだ慣れない鍵盤に私が間違えると、「今のは違うで〜」と動きを止めて教えてくれます。「ごめん〜」と謝ると、「謝らんでいいで」と言ってくれるのです。そんな皆の優しさに助けられながら少しずつですが作品が出来上がっていきました。
その週の金曜日、「クレオパトラ楽しくなってきた」と笑って言ってくれる皆がいました。子ども達が向けてくれる笑顔ほど強くしてくれるものはありません。
翌週からは園長先生との発表会がスタートしました。ピアノが鳴ると、「王様はここから出て来る」と皆よく覚えています。限られた時間です。皆ついてきてくれるかなとの心配をよそに、私が皆についていくのに必死でした。園長先生の一言一言に皆が表現で応えます。そして改めて思いました。子ども達の音楽を捉える力は凄いです。
祝日の登園にも協力していただき、何とか一つの作品としての場面が揃いました。
「全部繋げてやってみよう!小道具も自分達でやるんだよ?」と言うと、「うん!」と目を輝かせながらとびきりの返事をしてくれました。
その30分後、私は皆の前で溢れる涙を止められませんでした。皆と仲良くなれるのか、一緒に発表会が作れるのか、大人げないですが、皆に不安だった気持ちを初めて伝えました。するとじっと聞いてくれていた皆の目からもポロポロと涙がこぼれていました。
毎朝、「京極先生、まだかぁ」と落胆する皆は私が思うよりもずっと今の現状を受け止めて私のことも受け入れてくれていたのでした。
お母さん方はもちろん、京極先生に見てもらうのを目標に全員で駆け抜けて来ました。
当日は、「京極先生の分まで」と気持ちを切り替えての発表会でした。スモック姿の皆も制服姿の皆もとても大きく見えました。
最後になりましたが、いつも温かく見守っていただき、本当にありがとうございました。子ども達は毎日、み仏様に手を合わせ、一日も早い京極先生の回復を祈っています。
■つばめ
「来たぁ!」「呼ばれた!」
しか組の発表会が終わる頃、待機していたもも組の内線が鳴った瞬間に皆の気合いが一層膨らんだのを感じました。
全員の視線が受話器に注がれ、まるで合格発表かのように固唾を飲んで私の一言を待ってくれていました。
つばめ組が呼ばれたと伝えると、皆は「待ってました!」と言わんばかりの表情です。
部屋を出る前に、皆で決めた約束表を再度見ました。
それを見た男の子達が、「ロークのポーズ、格好良くしような」「火山の中のとき絶対喋ったらあかんで」と、今までの約束を振り返り、皆で確認してくれていました。皆のエネルギーが集まってとてもいい緊張感で出発しました。
皆の気持ちが寄り添い、本番を迎えられる雰囲気に始まる前にも関わらず泣きそうな誰かさんでしたが、きっとそれは誰にも気付かれてなかったことでしょう。
実は、発表会を作っている期間に、皆の前で涙してしまったことがあったのです。子ども達を魅きつける力がなかった私自身の責任でもあるのですが、つばめ組に割り当てられた講堂の限られた時間のなかで坂で遊んだり準備の間に走ってふざけてしまうことがありました。
「皆の心がバラバラだよ。先生、悲しいよ」「つばめさんは講堂に行けるけど、はと組さんは先生がしんどくなっちゃって講堂に行きたくても行けないんだよ」と心のままに話をして涙してしまいました。
そんな出来事があって誕生した約束表は皆で立てた目標が書かれて、今では沢山の「合格シール」が貼られています。それを再度皆で見てからお母さん方の待っている講堂へと出発しました。
32人全員で作り上げていることを皆が実感しているのが伝わってきて、弾きながら嬉しさが込み上げてきました。
合奏では、「ありがとう拍手を」を歌う1人ひとりの顔を見ながら、以前に私が涙してしまった日の1人ひとりの表情が思い出され込み上げてきました。
あの日、私の涙を見て、「先生ごめんね」と泣いちゃった子、「もうおふざけしない」と伏し目がちだった子、「心がバラバラは嫌や」と声を掛けてくれた子、その他にも部屋の発表会で皆を引っ張ってくれた様子などが1人ひとり思い出されました。しっかり前を向き歌う皆は本当に格好良かったです。
皆、先生、いっぱい怒ったり、泣いちゃったりしてごめんね。でも本当に皆はとても格好良かったよ!お母さん方も温かく見守って下さりありがとうございました。
あと3週間、大好きな皆との時間を大切に過ごします。
■あひる
発表会当日、登園した子ども達は緊張することなく、友達と遊び追い掛っ子をしたり、絵本を見たり、「今日は本当に発表会なの?」と思ってしまうほど、普段と変わらない姿でした。
講堂でお母さん方に見てもらう前に少しだけでも一場面から進めようと思っていました。
でも、子ども達を見ていると、「本番、特別」と思っていることに疑問を持ったのです。
自分の不安を消そうとしているだけなのではと気付きました。
そこで、普段、子ども達と遊んでいる相撲大会を開きました。発表会当日に何をしているのか、今、思うと笑ってしまいますが、子ども達に教えてもらい、信じて良かったと感じます。
全員が揃った頃に、みんなで輪になり話し合いをしました。
「一場面はお母さん達びっくりするかな?」「ロミオは絶対笑うで」「最後は泣くかな?」
見ている人がいろんな表情や想いを持ってもらえるようにと、取り組み始めた1月から何度も話し合ってきました。
出番が近付き、講堂へ向かうときも、「早くしたい!」と、みんなから余裕さえ感じられました。
幕が開き、それからの時間はあっという間に感じました。
1つ1つの場面が終わるたびに、「終わらないで、もっとしたい」と思って仕方なかったです。 そして、エンディングが始まります。
子ども達が最後に舞台でロミオとジュリエットに想いを伝える姿を見ていると、胸が熱くなり、涙をこらえるのに必死でした。
お母さん方も、温かく見守って下さり、拍手を送って下さり、本当にありがとうございました。
「お母さん泣いてた!」終わってからの第一声です。演じながらも、ちゃんとお母さんの位置をチェックして見ているのです。子ども達ってすごいですね。
みんなで作り上げた発表会、これまで、上手く出来ない日もありました。弱音を吐き、「今日の所だめかな」と口にした日、「絶対、大丈夫」と励ましてくれたのは子ども達です。
「だめならまたみんなで考えよ」「園長先生に言ってくるわ」
心強い子ども達の言葉に背中を押してもらい、出来上がった発表会です。
終わってしまった今は、やはり寂しくもなります。卒園まで後少し、みんなに会える日々を考えると、涙が出てしまいます。
「ランドセル、買いに行く」「机、届くねん」と笑顔で教えてくれる姿を見ていると、笑顔で送り出さないといけないなと感じます。
残り数日しかないけれど、「笑顔で楽しく」を心に刻んで、お母さん方も一緒に園生活を送りましょうね
■かもめ
これまで、一ヶ月半もの間、ほぼ毎日発表会を作ってきました。時には心がバラバラになり、話し合い、涙する日もありました。それでも皆の気持ちは、「皆と一緒に発表会をやりたい」でした。 私もそんな子ども達が嬉しかったです。
そして2月に入り、遂に発表会が完成しました!
出来上がった直後、一人ずつ今の気持ちを聞きました。
「嬉しい」「諦めずに作れてよかった」「皆で心を一つにできて楽しかった」など、嬉しい返事が返ってきました。
それから本番までに講堂で全部通して出来るのは、3回でした。1回1回を大切にやろうね。と約束しました。通せば通すたび、私も欲が出てきて、「やっぱりこうする?」「ここでもっと気持ち込めて!」と要求することも増えました。それに、「そっちのほうがいい!」と皆も納得してくれ、「さっすが〜!」と子ども達が頼もしかったです。
しかし発表会前日、最後の講堂が終わり感想を聞くと、「あんまり!」「微妙やった!」と軽く返事が返ってきました。私も発表会中、本気の皆には見えずにいたので、簡単に返ってきた言葉にショックを受けました。こんな気持ちのまま本番を迎えていいのか?でも前日だし、気持ちを高めてからさよならしたい。どうしていいかわからなくなってしまいました。
子ども達も私の異変に気付きはじめました。何も言わなくてもわかっているのです。自分達の心が一つになっていなかったことが。
どのように話をしようかとしばらく考えました。やはりいつも通りきちんと話し合いをしなければと思い、話し合いました。答えは、「心を一つにして頑張る」でした。
「お母さん達にもかっこいいとこ見てもらいたい」と涙する子も続出しました。
前日にこんな話し合いになるなんて思いもしませんでしたが、子ども達の気持ちも再確認出来、「この涙はかもめ組だけの内緒にしよ!皆なら絶対出来るから!」と涙を拭きさよならをしました。 しかし二日間も休みの後の発表会です。正直どんな気持ちでやって来るのか不安になってしまいました。
当日は私の予想に反し、「待ってました!」と言わんばかりの満面の笑み、やる気満々の皆が本当に本当に嬉しかったです。講堂に行く前、一度部屋で発表会をしました。そこには二日前の皆はいませんでした。今までにないくらい皆の気持ちが一つになっていることが伝わり、感動しました。 いよいよ本番です。皆の一生懸命さ、力強さ、何もかもの気持ちが今までで1番伝わり、エンディングでは涙で楽譜が見えなくなっては無理矢理、涙を引っ込めました。講堂を出ると涙が溢れて止まりませんでした。
皆は、「なんで泣いてんの〜」とニヤニヤ私を見てきます。心を一つにし、達成感に満ちた素敵な笑顔で。
「皆がかっこよかったからやん」と言うと、「発表会しながら、ほんまに涙出てんで〜」「楽しかったな〜」と言う皆がまた大きく見えました。こんなにも感動を与えてくれて本当に幸せ一杯でした。かもめ組で皆と出会えてよかった!声を大にして言いたいです。
■ぺんぎん
今日も子ども達の発表会がまた一つ終わりました。
「日本中の幼稚園の先生が見てくれるの?」と胸を躍らせ、緊張の面持ちを覗かせながらも幕が下りました。
発表会とは生きもので、同じものは二度できません。子ども達の表情も毎回違うし、長靴が足りないなど、思いがけないハプニングによっても変わります。しかし、ただ一つ言えるのは、保護者に見てもらったあの日よりも、今日の方がよかったということです。
あの日と何が違ったのか。それは「友達の分もがんばる気持ち」です。
そう、今日は全員でできなかったのです。
朝、私がたまたま事務所で受けた電話が、モウ太欠席の知らせでした。欠席理由は嘔吐でした。しかし厳密には、嘔吐は治まっていたそうですが、皆にうつさないようにとの配慮からの欠席でした。子ども達はどんな顔をするだろうかと時を待ちました。
「今日は全員でできないの」の言葉に、子ども達はハッとした表情でキョロキョロと見渡し、モウ太の一人がいないことにすぐに気付きました。そして、「なんで!?」と迫りました。皆、思っていた通りの顔です。
お母さんの言葉を借りてゆっくり話をすると、部屋が静まり返っていました。
そして、しばらくの沈黙を破って誰かが尋ねました。
「みんなのために、休んでくれたの?」
「そうだね」
「友達のために?」
「そうだね」
そして涙を浮かべる子もいました。部屋中に優しい空気が漂っていました。
出番を次に控え、移動したつばめ組の保育室ではこんなやりとりがありました。
「そうだ、電話をしよう」と内線の受話器を取り、得意の小芝居です。相手は欠席のモウ太です。子ども達は耳を澄ませます。
「今からだよ」
私の声に、子ども達が深く頷きます。誰も疑いません。そして子ども達に受話器を向けると、声を揃えて言いました。
「がんばるよ」
どれだけ重く、どれだけ優しい言葉だったでしょうか。リレー大会のときもそうだったね。
あの日の発表会では、沢山の観客に怖気付いていないか、声は出せているかと、少しの心配がありました。しかし今日は・・・、言うまでもありません。友達の思いも背負って演じる後ろ姿が、どれだけ大きく見えたことか!
そして、子ども達が「ともだち」と歌う度に目頭が熱くなりました。
きっと届いたよね!
モウ太にも、雨ふり小僧にも。
■うぐいす
1ヶ月半の思い出と共に詰まった24分間の物語と合奏が終わり、皆が待つ部屋へと戻る廊下では、終えたことに安堵し、発表会の良かったところや、ピアノのハプニングについてどう話そうか考えるはずでした。
しかし、そんな言葉よりも、合奏後の一列で歩き出し挨拶する子ども達の姿が脳裏に焼き付き、「卒園」という言葉が急に浮かび、気が付けば部屋まで走り出していました。
「終わってしまった・・・嫌だ・・・寂しい・・・」
勢い良く開いた扉に反応し、振り向いた皆の表情は、発表会での褒め言葉を待っているかのようでした。
しかし、声を出して泣き出す教師を見ると、直ぐに近付き、「何で泣いているん?」と声を掛けてくれました。
「終わっでしまった。嫌だ。皆が卒園しちゃうー」と号泣する教師に背中を摩ってくれる子や、一緒に涙を溜める子もいました。
静まった部屋で、泣き出す大人をあやしてくれるかのように、「ねぇ、先生、ピアノ間違えたでしょ!」と出た言葉に、笑顔になった教師を見て、「先生、間違えてた!」「びっくりしたやんか!」と、待ってましたと言わんばかりのクレームの嵐でした!「ごめんなさい!」
教師:今度のお客さんは、全国から皆のことを 撮影しに来たカメラマン達です!
子ども達:えー!?
日曜日のデビュー日は、朝から、「さっき、テレビカメラの人に会ったよ!」「沢山いたよ!」「スーツ着た人が一杯いたよ!」といつもよりも興奮していました。
教師:34人の気持ちをひとつに〜!
子ども達:するぞ!
の言葉で気合いを入れた子ども達は、沢山の報道陣(?)にも堂々した表情でしていました。
「先生、今日はピアノ上手だったよ」と、私も褒め言葉をもらいました。
「99てん」
部屋の黒板端に書かれた点数は日々の講堂の発表会で園長先生にもらった点数です。
「100点目指す!」という気持ちで講堂に向かっていた日々は、「先生!今日は90点やって!やったー!上がった!」と、上がったことをとても喜んでいました。
「99点」のままで迎えた発表会でしたが、「99点で良かった」と言ってくれます。
「だって100点よりも、99点のほうが頑張れるもん!」うぐぱれちゃん達の「良かったさがし」がまた一つ出来ました。
さて、来月は、縄跳び大会です。降園前にしてきた1分間のエアー縄跳びの成果はいかに!
■かなりや
本当に、「毎日が発表会」の日々でした。
でも子ども達は、「今日も発表会する?」「今日はどこ(どの場面)からする?」と聞いてくれました。
「また今日も発表会かぁ」と言う子も、ピアノが聞こえるとすぐにその役になりきってくれます。どの場面からでも、ピアノを聞けば自然に身体が動きセリフも言えるほど覚えてくれました。
2月に入ってからは、「いつになったらお母さん達見に来るん?早く来てほしい!」と何度言われたか分かりません。そして遂に、発表会当日になりました。
部屋に来る子ども達はいつも通り元気一杯で緊張している様子もありませんでした。
そして皆で集まり、発表会の話を始めるとすぐに、「なぁ!早よ講堂行こうな!!」と、もう待ち切れないようでした。
「今日は、おばあちゃん来てる!」「お父さんもやで!」と、自信に満ちた笑顔で皆話してくれました。子ども達にとっては、念願の発表会だったのです。
発表会が始まるといつも以上に表現に気合いが入っているようでした。26分ある作品ですが、あっという間に終わってしまいました。
終わりに近い曲を弾きながら、「ずっとこの時間が続けばいいのに」と思ったのは私だけではないはずです。
発表会が終わると次は合唱です。
着替えを済ませ講堂横で待機していると、年中の子達の歌が聞こえてきました。
「この歌、知ってる!」と一緒に口ずさんで歌っている子もいました。
年中の子が退場するときには曲に合わせて拍手で出迎えていました。
そんな子ども達の優しく頼もしい姿がカーテンで見えなかったのが残念です。
そして子ども達の番がきました。
部屋でも何度も歌い、私がすごく気に入っているのが「待っててね」の曲です。ただ大きな声で歌っているだけではなく皆、ママのことをしっかり考えながら歌っているからです。
何度か、「大きくなったら結婚する人決めている。それはね、先生」と私が歌ったことがありますが、いつも、「違うもん!ママやもん!」と言い返されます。
友達の前では照れてお母さんに素気ない子もあの歌を通して、「ママ大好き!」と伝えているんだと思うと、保護者の方がとても羨ましかったです。
かなりや組の子達と過ごせるのも、あと数日しかありません。皆で色々話し、笑い合いもっともっと楽しい思い出を沢山作りたいです。
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